全文起こし、図入り 「中野剛志 視点・論点 「TPP参加の是非」」 20111025

中野剛志 視点・論点 「TPP参加の是非」
>
文字起こし



TPPとは農業や工業の関税の完全な撤廃のみならず、金融労働環境衛生など広範囲にわたって外国企業の参入障壁の撤廃を目指す国際協定です。現在、9カ国が交渉に参加して交渉を行っているところであり、日本はこの交渉への参加を検討しています。
しかし、このTPPへの交渉に参加することは一般に思われているよりもずっと危険なことなのです。

第一に、TPPへの参加は東日本大震災からの復興の妨げになります。東北の被災地は農業が盛んな地域です。
農家の方々はこれから多額の費用をかけて農地を復興していかなければなりません。
しかしもし将来、TPPに参加して農業経営が厳しくなるかもしれないと思ったら、被災した農家の方々は復興にむけての気力を失うでしょう。

現に宮崎県の畜産農家の中には、口蹄疫の被害の後、畜産を再開しようとしたけれど、TPPの問題がもちあがったのでやめてしまった、ところがあるそうです。

TPPへの参加のみならず、TPP交渉への参加を交渉しているだけで、被災した農家へ不安を与え、復興の妨げになっています。野田内閣は復興を最優先課題としていましたが、そうであるなら、TPP交渉参加の検討も中止すべきではないでしょうか?

第二に、TPPは日本にとってなんのメリットもありません。TPPへの参加によって、アジア太平洋の新興国の成長取り込める、という意見がありますが、間違っています。

この図をご覧ください。

GDPシェア



これはTPP交渉に参加している9カ国に日本を加えた10カ国の経済規模の比率をグラフにしたものです。
するとアメリカが約70%、日本が約20%となります。
そしてオーストラリアが約4%、残り七カ国を合わせてたった約4%です。
ですから、日本企業が輸出できるアジア市場など、ないのです。
日本が参加したTPPは日米で9割を占めます。
中国もインドも韓国もTPPには入っておらず、入る予定もありません。
したがって、TPPに参加してアジアの成長を取りこむことはできません。
TPPとは実質的に日米貿易協定なのです。

TPP参加国の中で日本が輸出できそうなのは、アメリカだけです。
しかしアメリカの関税は低く、例えば自動車の関税は2.5%にすぎませんので、これを撤廃してもらってもあまり意味はありません。
しかも日本企業はグローバル化し、アメリカでの現地生産をすすめていますので、関税があってもなくても競争力とはほとんど関係がありません。
またアメリカは現在、失業率が高く、深刻な不況にあり、アメリカに輸出しても物は売れません。
それどころか、オバマ政権は貿易赤字を削減するため、2014年までに輸出を倍増する戦略を打ち出しています。これは、1ドル70円程度の円高ドル安がないと達成できない戦略です。アメリカは、円高ドル安を望んでおり、実際、円高ドル安が進行しています。
関税撤廃の効果など、円高がすすめば消えてしまいます。

したがって日本はTPPに参加してもアジアにもアメリカにも輸出を伸ばす事はできないのです。

さて、輸出倍増を掲げるアメリカですが、TPPでアメリカが輸出を増やせそうな国は、日本しかありません。つまりアメリカは、TPPによって日本の市場を獲得することを狙っているのです。

 第三に、日本はTPPに参加しないと世界の潮流から取り残されるとか、鎖国になるとかいった懸念が聞かれますが、それも間違いです。

次の図をご覧ください。

主要国の平均関税率


青い棒グラフは、すべての品目の平均関税率ですが、日本の平均関税率は韓国よりもアメリカよりも低いのです。そして農産品の平均関税率についても、韓国よりずっと低く、EUよりも低いのです。しかも、日本は、食料の自給率が低いのですから、農業市場は十分に開放されているわけです。

 また、日本は、すでに十二の国や地域との間で、経済連携協定を結んでいます。日米関係は、十分に自由貿易です。そして、TPPは、実質的に日米協定であり、中国もインドも韓国もEUも参加していません。
日本は、TPPに参加しなくても、世界から取り残されることなどあり得ません。
 これ以上、日本は海外からの食料輸入を増やしてもよいのでしょうか?現在、世界的に食料の値段が高騰し、ソマリアではたくさんの人々が飢えに苦しんでいます。

 日本のような豊かな国が、食料の輸入を増やしたら、食料の値段はもっと上がり、発展途上国の貧しい人々はもっと苦しむのではないでしょうか。

 また、安い食料の輸入が増えたら、国内の農業や食品産業で競争が激化し、価格引き下げ競争が始まります。これは、デフレをもっとひどくすることになります。給料は下がり、失業者は増え、不況は深刻化するでしょう。安い製品の輸入は、一見、良いことのように見えますが、実は、デフレのときには、デフレをもっとひどくすることになるのです。

第四に、TPPの問題点は、農業だけではありません。現在、TPPの交渉は農業以外にも、金融、投資、労働規制、衛生、環境、知的財産権、政府調達など、あわせて24もの分野があります。

TPPは、日本の食料だけではなく、銀行、保険、雇用、食の安全、環境規制、医療サービスなど、国民生活のありとあらゆるものを、変えてしまいかねません。特に、アメリカは、日本の保険制度をアメリカの保険会社に有利なように変えることを求めてきています。

実際、アメリカは昨年、韓国との自由貿易協定に合意しましたが、この自由貿易協定の結果、韓国は、例えば、共済保険を三年以内に解体することになりましたし、自動車の安全基準や環境規制についても、アメリカ企業に有利になるように変えなくてはなりません。

このように、TPPに参加すると、自分たちの国の基準によって、国民の健康や安全を守ることができなくなってしまうのです。

最後に、政府の一部に「まずは、TPPの交渉に参加してみて、どうしても譲れない部分があるなら、交渉から離脱すればよい」と言って、TPPの交渉参加を促す声があります。

しかし、TPPへの参加が結婚ならば、TPPの交渉参加とは婚約のようなものです。交渉参加とは、参加を前提としたお付き合いなのです。ですから、いったん多国間交渉に参加して、そこから離脱したという国の例は、ほとんどありません。

特にTPPは先ほど申し上げましたように、実質的に日米協定です。したがって、もし日本がいったん交渉に参加しながら、途中で抜けたら、アメリカは裏切られたかっこうになり、日米関係は非常に悪化します。アメリカ以外の国々からも信頼を失います。

ですから、TPPの交渉にいったん参加したら、どんなにルールが不利になろうと離脱することはできなくなってしまうのです。

 1911年、日本は小村寿太郎の活躍によって、不平等条約を改正し、関税自主権を回復しました。それからちょうど100年後の今年、その関税自主権を放棄するなどという歴史を、私たちは、後世に語り継いでいけるのでしょうか。




国力とは何か―経済ナショナリズムの理論と政策 (講談社現代新書)国力とは何か―経済ナショナリズムの理論と政策 (講談社現代新書)
(2011/07/15)
中野 剛志

商品詳細を見る


亡国最終兵器-TPP問題の真実(チャンネル桜叢書vol.1)亡国最終兵器-TPP問題の真実(チャンネル桜叢書vol.1)
(2011/08/01)
関岡 英之、長尾 たかし 他

商品詳細を見る
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

C.F.E.

Author:C.F.E.
現実にいる政治家に会うこともあったが、どうにも信用ができなかった。それは、客観性のない事実を彼らが信じ、誰が考えたかもわからない論理を発展させ、政策にしていたから。僕は、そんな彼らに辟易としていたが、何もせず彼らの好きなようにさせておくわけにはいかないと考え、少しでも多くの人へ、事実を伝えていけたらと思い、ここに行動を開始いたします。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
アクセスカウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR